人生楽ありゃ苦もあるさ 安藤建築の原点(デザインの景色シリーズVol.5)

住吉の長屋の構造解説

住吉の長屋の意匠設計を読み解く

近畿地方の長屋住宅は、中庭・通り庭・後庭を備えることを理想とする住宅様式である。
安藤忠雄氏の設計した住吉の長屋(1976)は、広さは間口3.45m、奥行き14.25m。奥行方向を三等分して、真ん中に生活動線を断ち切る中庭を配置している。
日本建築で採用されてきた寸法を採用し、7尺5寸(約2.25m)という天井の高さを決めたとされる。内装材や家具などは天然素材を使用、床は石材、フローリング・家具は木材である。

本件は柱梁のラーメン構造主体であった日本で、壁式構造を得意とした安藤忠雄が有名になった作品である。
住吉の長屋に習って、内外打ち放し、木製建具、シンメトリーのデザインが当時流行になったという。
壁式構造はラーメン構造よりも地震に強い構造で、阪神淡路大震災の際でも壁式構造のマンションは
古くてもほとんど被害がなかったらしい。
本作品であるがミニマムかつミニマルを追求した、引き算ベースの究極のデザインであると言える。
不便ばかりが強調される本建物であるが、限られた条件の中で、生活環境と居住環境のバランスを取って生まれた必然的な設計に思える。
動線を考えると確かに不都合な部分は多いが、通風、採光、日照の確保には妥協がない。
安藤忠雄氏曰く、建築とは「見る」ものではなく「体験する」ものだと言う。
「五感を通じて感じることができる空間を作る」という考え方が安藤忠雄氏の設計思想に流れている。
狭いながらも、健全に生態系を維持するために必要な、最低限の小宇宙が確かにそこには存在している。
悪名高き「住吉の長屋」も現在のウィズコロナ環境下では理想郷なのかもしれないと思った。

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