近年STEP形式がIGES形式よりも多く使われるようになった理由について、考察してみました。
STEP形式が普及した背景と理由
STEP形式(Standard for the Exchange of Product model data)が近年広く利用されるようになった背景には、以下のようないくつかの要因が複合的に絡み合っています。
- ソリッドモデリングの普及と高度化:
- 3D CADソフトウェアの進化に伴い、ソリッドモデリングが主流になりました。ソリッドモデルは、体積や質量などの物理的な特性を保持し、設計、解析、製造など、幅広い分野で利用されます。
- IGES形式は、もともとサーフェスモデルの交換に重点を置いていたため、ソリッドモデルの情報を正確に保持することが苦手でした。
- STEP形式は、ソリッドモデルの情報を正確に保持し、形状だけでなく、製品情報(属性、構造など)も扱えるため、ソリッドモデリングの普及とともに需要が高まりました。
- 製品ライフサイクル管理(PLM)の重要性の高まり:
- 製品の企画から設計、製造、販売、保守まで、製品ライフサイクル全体を管理するPLMの重要性が高まっています。
- PLMシステムでは、製品に関するさまざまな情報を一元管理する必要があり、そのために、CADデータだけでなく、製品の属性情報や構造情報も正確に保持できるSTEP形式が不可欠となりました。
- IGES形式では、これらの情報を十分に保持することが難しく、PLMシステムとの連携が困難でした。
- データ変換時の信頼性の向上:
- IGES形式は、異なるCADソフトウェア間でデータを変換する際に、形状が崩れたり、情報が失われたりするリスクがありました。特に、複雑な形状やソリッドモデルの場合、その傾向が顕著でした。
- STEP形式は、より高度なデータ構造を持ち、データ変換時の情報の損失を最小限に抑えることができます。これにより、異なるCADソフトウェア間でのデータ交換の信頼性が向上し、設計データの再利用や共有が容易になりました。
- 国際標準規格としての採用:
- STEP形式は、ISO(国際標準化機構)によって標準規格(ISO 10303)として定められています。これにより、世界中の企業が安心してSTEP形式を利用できるようになりました。
- 国際的なサプライチェーンにおいては、異なる企業間でデータをやり取りする際に、標準規格に準拠したSTEP形式が不可欠となっています。
- 製造業におけるデジタル化の推進:
- 製造業では、設計から製造までのプロセスをデジタル化する動きが加速しています。
- STEP形式は、CADデータだけでなく、CAM(コンピュータ支援製造)やCAE(コンピュータ支援エンジニアリング)などのデータも扱えるため、デジタル化を推進する上で重要な役割を果たしています。
- IGES形式は、これらのデータ連携には不向きでした。
- ソフトウェアベンダーの対応:
- 主要なCADソフトウェアベンダーは、STEP形式のサポートを強化し、より正確で効率的なデータ交換を可能にしています。
- これにより、ユーザーは安心してSTEP形式を利用できるようになり、普及を後押ししました。
まとめ
STEP形式が近年多く使われるようになったのは、単に新しい規格だからというだけでなく、以下の要因が複合的に絡み合った結果と言えます。
- ソリッドモデリングの普及と高度化
- 製品ライフサイクル管理(PLM)の重要性の高まり
- データ変換時の信頼性の向上
- 国際標準規格としての採用
- 製造業におけるデジタル化の推進
- ソフトウェアベンダーの対応
これらの要因により、STEP形式は、より正確で信頼性の高いデータ交換を可能にし、設計、製造、解析など、幅広い分野で不可欠なファイル形式となりました。
補足
- IGES形式が完全に使われなくなったわけではありません。古いCADソフトウェアとの互換性や、単純な形状のデータ交換など、特定の用途では依然として利用されています。
- STEP形式も、すべてのCADソフトウェアで完全に互換性があるわけではありません。異なるCADソフトウェア間でデータをやり取りする際には、注意が必要です。
コメントを残す