米国特許商標庁（USPTO）への特許出願において、かつては図面の作成に特化した「パテントドラフツマン」（Patent Draftsman）という制度が存在しました。これは、特許図面が満たすべき厳格な要件に対応するために設けられていた職能資格です。
👨🎨 パテントドラフツマン制度の概要
「パテントドラフツマン」は、特許出願の図面を作成する専門家であり、その図面がUSPTOの定める厳格な物理的・形式的要件を満たすことを保証する役割を担っていました。
📜 かつての特許図面の厳格な要件
40年以上前の制度が存在していた時代、USPTOは特許図面に対して非常に詳細で厳格な要件を課していました。これは、当時の図面が手書きで作成され、その後のマイクロフィルム化や印刷に耐える必要があったためです。
- インクと線: 通常、黒色のインク（例えば、インドインク）を使用し、線は製図器具を用いて描かれ、均一な太さで明確である必要がありました。色付きの図面は原則として許容されませんでした。
- 紙の要件: 特定のサイズ（例：当時のUSPTOの規定に基づいた特定の寸法）の丈夫で白い、光沢のない紙の使用が求められました。
- 描画の焦点: 図面は発明の理解に必要な部分を示し、文字は「水（water）」や「開（open）」などの絶対不可欠な単語に限定されていました。
- 複数図面の配置: 複数の図面が一つのシートに収められる場合、スペースを無駄にせず、互いに明確に区切る必要がありました。
🛠️ ドラフツマンの役割
パテントドラフツマンは、発明者や弁理士から提供されたスケッチや説明に基づき、これらの複雑で厳格な製図要件をすべて満たすプロフェッショナルな特許図面を作成しました。彼らの専門知識は、図面がUSPTOに受理され、出願処理の遅延を防ぐために不可欠でした。
📉 制度が廃止された経緯
パテントドラフツマンという「公式の資格制度」または「必須の専門職」としての制度が形骸化・廃止されたのは、主に技術の進歩とUSPTOの規則の緩和によるものです。
1. 🖥️ コンピュータ技術の進歩
- CAD/デジタル製図: 1980年代以降の**CAD（Computer-Aided Design）**ソフトウェアの普及により、誰でも容易に正確で高品質な図面をデジタルで作成できるようになりました。これにより、手書きの製図技能を持つ専門家であるドラフツマンの必要性が薄れました。
- 高品質な印刷・スキャン: 図面をデジタルで作成・提出し、USPTO側もそれを高品質でスキャン、印刷、公開できるようになったため、手書き時代の厳格な物理的要件（特定のインクや紙質）の多くが緩和されました。
2. 📝 USPTOの規則緩和
- 図面要件の合理化: USPTOは、1990年代後半から2000年代初頭にかけて、特許図面の要件を大幅に合理化しました。重要なのは、図面が「審査官に発明を伝えることができること」と「スキャン可能であること」に焦点を移し、形式的な厳格さを減らしました（例：2000年に規則が調整され、修正が必要な回数が減少）。
- 公式ドラフツマンの非必須化: これに伴い、USPTOは出願人に「公式のドラフツマンを雇うこと」を要求しなくなりました。特許出願人は、必要な要件を満たしていれば、自身で図面を作成するか、専門的な図面サービス（必ずしもかつての「パテントドラフツマン」の資格を持つ必要はない）を利用できるようになりました。
💡 まとめ
かつての「パテントドラフツマン」は、特許図面の作成における高度な専門性と厳格な形式要件を背景に存在する制度でした。しかし、デジタル技術の進化とUSPTOの審査効率化のための規則緩和により、その制度は特定の資格としてではなく、特許図面作成のスキルとして組み込まれ、公式の資格制度としては事実上廃止されました。
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