はたらくじどうしゃ事件(パブリックアートの利用)

はたらくじどうしゃの表紙
出典:https://bijutsutecho.com/magazine/series/s22/21162

パブリックアートの著作権について考えてみた

横浜在住の画家ロコ・サトシは地元団体の依頼で横浜市営バスの車体全面にイラストを描いた。
そのバスの写真が、子供向けの「まちをはしるはたらくじどうしゃ」という絵本シリーズに無断で使用されたことから出版者に対して著作権侵害の訴訟を提起したものである。

東京地判平成13年 7 月25日・判時1758号137頁・判タ1067号297頁

本事件の争点は次の2点である。
1.バスの車体に描かれたイラストが、著作物の自由利用が認められている「美術の著作物の原作品を屋外の場所に恒常的に設置した場合」(著作権法46条柱書)に該当するか。
2.イラストが描かれたバスの写真を書籍に掲載して販売することが、自由利用の例外である「専ら美術の著作物の複製物の 販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する行為」(著作権法46条4号)に該当するか。

裁判ではバスに描かれたイラストが美術の著作物であることは認定されたが、争点については著作権法46条の適用を理由に請求棄却となった。

この裁判でのポイントは、「恒常的に設置する」という条文の定義である。
裁判官はこの条文にある「一般人の行動の自由を確保する」という趣旨を考慮すると、一定の場所へ固定されているという一般的な概念に限定されるものではないと判断した。
そのうえで、該当のバスは一般の市営バスと同様に、公道を定期的に継続運行しているたことを鑑みると「恒常的に設置した」というべきであるとした。
また著作権法46条4号の適用については、該当の書籍が幼児向けの教育書籍であることから、専ら美術の著作物の複製物の販売を目 的として複製し、又はその複製物を販売する行為には、該当しないと結論づけたものである。

著作権法46条では上記美術の著作物とともに建築の著作物が自由利用の対象として以前から認められていることもあり、類似の判例などはほとんどなくかなり特殊な事件であるが、将来の指針としてはとても役に立つ。

最近では印刷技術の進歩により車両や建物などに大型のプリントシートを貼り付けるケースがよくある。
列車や航空機のキャンペーン用のデザインはTVコマーシャルなどでもよく目にするようになった。
本件の判例は「恒常的に設置」という文言の定義を広げすぎているという意見もあるようであるが、インスタグラムなどのSNSが社会に浸透している今日、著作権法46条の「一般人の行動の自由を確保する」という考え方は重要なので堅持すべきである。
しかし、意匠や商標などのように審査した上で登録される権利と違い著作権は審査が無いため一般人が侵害する行為であるかどうか判断することは難しい。
本事件の判例でも例えば該当のバスがイベントキャンペーン用のもので定期運行されているものでなければ「恒常的に設置した」とは言えないとしているが、はたして偶然通あわせた人が定期運行なのか臨時運行なのかを判断することが出来るであろうか。
将来同様の訴訟が提起された際に判例として検討のベースとなることは確実だが、条文の解釈によってブレてしまうような内容であってはならない。
著作権法上の例外規定となる30条〜47条の内容については一般人でも理解しやすいように運用基準を作って周知を計ってもらいたいものである。
ちなみに、著作権法46条には下記の4項目の例外が設定されている。
(1)彫刻を彫刻として増製し,又はそれを公衆に譲渡すること。
(2)建築の著作物を建築として複製し,又はそれを公衆に譲渡すること。
(3)屋外に恒常的に設置するために複製すること。
(4)もっぱら販売目的で美術の著作物を複製し,又はそれを販売すること。
SNSでは著作権の他にも商標権や肖像権、芸能人などのパブリシティー権などが問題になることが多いようであるので十分注意して運用したい。

参考文献 
知的財産法政策学研究 Vol.10(2006) 可能な著作物に対する公衆の利用の自由―はたらくじどうしゃ事件―村井 麻衣子
美術手帖 https://bijutsutecho.com/magazine/series/s22/21162

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